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原案:司法書士 相澤 剛 更新
亡くなった身内に過払い金があると分かった場合、相続人が代わって請求できます。
いわゆる「故人過払い金請求」の相談も少なくありません。
相続人による代理請求では、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
今回は、故人過払い金請求の特徴、手続きの流れ、完済後と返済中の違い、注意ポイントなどをご説明しますので、ご依頼予定の方はぜひご一読ください。
当然ながら、亡くなった方が過払い金を請求することも、交渉することもできません。
この場合、請求権利を「相続」する人が代理で請求手続きを行います。
正式な調査依頼の前に、さまざまな準備が必要となります。
「誰が故人の相続権利を有するのか」
この情報がないと、事務所も動けませんし、請求先業者も返還に応じることはできません。
相続財産である過払い金の相続先は誰にあたるのか、法的に証明する必要があります。
相続人の確定は、故人の戸籍をすべてそろえることで可能です。
戸籍には亡くなった人との関係がすべて記されており、誰が相続権を有するのかを証明する手がかりとなります。
相続人をすべて確定したうえで過払い金の調査に入ったほうが、その後の手続きもスムーズに運びます。
故人過払い金請求では、相続人がバラバラで請求するのではなく、ひとりの代表者を決め、その人にすべての権限をゆだねるかたちで手続きを進めます。
ある家庭で父親が亡くなり、相続人が3人(妻、息子兄弟)いたとしましょう。
取引履歴をもとに計算したところ、過払い金は100万円出ることが判明したとします。
この場合、それぞれの法定相続分は次のとおり。
妻:過払い金額の半分を承継する権利=50万円
兄:過払い金額の1/4を承継する権利=25万円
弟:過払い金額の1/4を承継する権利=25万円
過払い金の相続権利を持つ弟が、自分の請求権利分(50万円の1/2=25万円)だけ業者に請求することは、法的に間違いではありません。
しかしその場合、業者は個別に対応することになり、実務的に非常に非効率で手間がかかる作業となります。
そのような非効率を避けるために、相続人のなかから選ばれた代表者に調査から和解金額の決定まで、すべての権利をゆだねる方法がとられるわけです。
故人過払い金請求では、回収額の受取人が複数にまたがる可能性があります。
その場合は相続人同士で話し合い、誰がいくらもらうかの配分を決めなければなりません。
この配分作業には通常、弁護士・司法書士は介入しません。
おのおので決めてもらうことになります。
かりに話し合いで決着がつかない事態になり、紛争処理が必要になったら、仲介役は弁護士が適任です。
ちなみに、回収額のラインや裁判するかしないかといった交渉方針の決定は、相続人代表が一任することになります。
故人過払い金請求の手続きの流れをご説明します。
当事務所では、過払い金の有無、相続人の確定、代表者選抜を済ませたうえで、過払い金調査を引き受けることにしています。
そのため、調査依頼の前に、代表者の身分証明書(戸籍謄本)と、相続人が過払い金請求の交渉をゆだねることに同意した文書のご提出をお願いしています。
その準備が整ったうえで調査を行い、回収額のお見積りをご提示します。
相続人を証明する戸籍などは、正式依頼の後に提出してもらって構いません。
なお、以下でお伝えするのは相澤法務事務所における手続きの流れであり、ほかの事務所はその限りではありません。
依頼前の必要書類や手続きの進め方などは、事務所によって異なると思ってください。
過払い金の前提として本人に借金の事実があり、それを知る手がかりは振込明細書や請求書などの書類です。
銀行やキャッシング業者などが加盟する信用情報機関に照会を求めれば、本人の借金履歴が判明します。
その情報が参考となり、過払い金があるかないかのおよその判断が可能になるのです。
また、業者に問い合わせて取引履歴を取り寄せるという方法もあります。
亡くなった家族の借金関係を調べるために信用情報機関もしくは貸金業者に協力を求める場合は、故人との関係性(相続人である事実)が分かる書類(住民票、戸籍謄本など)が必要です。
過払い金があると分かれば、次に相続人を調べます。
故人の本籍地から戸籍を取り寄せるわけですが、洗いざらい調べるためにすべての戸籍を取得しなければなりません。
引っ越しや転居、結婚ごとに本籍地は変わり、新たに戸籍が作成されます。
相続人の漏れがひとりでもあると手続きに支障が生じるため、漏れがないように注意する必要があります。
相続人のなかから代表者を選びます。
代表者には、事務所の選定、和解額のライン、交渉方法、和解の最終的な判断など、あらゆる権限がゆだねられるため、そのつもりで選ぶ必要があります。
相続人を確定し、代表相続人を決めてはじめて、当事務所で過払い金調査の依頼ができます。
依頼の際は、代表者本人の戸籍謄本と、相続人全員が代表者にすべての権限をゆだねることに同意した委任状を提出してもらいます。
ここからは、通常の請求手続きとほぼ変わりません。
過払い金調査では、取引履歴に基づき過払い金額を算定。
およその回収額を提示します。
回収額と交渉方針に納得いただければ、業者との交渉をスタートさせます。
業者との和解額を報告、ご納得できれば和解成立です。
口頭で「和解に同意します」というのではなく、署名・捺印で同意の意思を示してもらいます。
なお、書面には実印を押してもらうことをお願いしています。
書類の形式としては遺産分割協議書となり、書き留めで全員の住所に送付し、署名と実印のあるものを当事務所に送り返してもらいます。
報酬を差し引いた回収額を相続人代表の口座に振り込みます。
回収額の分配については、相続人同士で話し合って決めてもらうことになります。
分配に関して司法書士はノータッチですので、ご理解ください。
過払い金は、完済後に請求するか返済中に請求するかで勝手が異なります。
故人に代わって請求する場合はとくにそれが顕著で、それぞれの注意点やデメリットに注意しなければなりません。
かりに借金の事実を隠していて、なおかつ完済していた場合、進んで調べでもしない限り、過払い金の有無の確認は困難です。
すでに金融業者との縁は切れた状態ですし、明細書や領収書といった物的証拠をすべて処分してあの世へ旅立たれたら、たとえ身近な人でも借金の事実には気づかないでしょう。
過払い金はほかの財産のように目に見えるものではないため、気づきにくいというのが本当のところです。
そもそも葬儀の準備や親族対応、寺院との打ち合わせなどでバタバタしている状況において、過払い金があるかないかを調べる余裕はないかもしれません。
相続財産や保険、預貯金、税金関係のことは「きちんとしなければならない」とはなっても、過払い金はそこまで切羽詰まった問題ではない、というのが正直なところではないでしょうか?
とはいえ、かりに亡くなった家族がグレーゾーン金利時代に20年も30年も借金していて、なおかつ近年まで返済をしていたなら、過払い金も相当な額に上ります。
「過払い金も相続財産のひとつ」という認識を持ち、当該情報について集めておいて損はありません。
もし運よく請求書や領収書などといった借金の“痕跡”が、遺品整理の過程で発見できたら、過払い金の有無を調べる大きな手がかりになるでしょう。
先述のとおり、信用情報機関に照会することも有効な方法です。
返済中であれば、業者から請求書が送られたり督促があったり、借金の事実を示す何かしらの証拠類は残りやすいものです。
そのため、完済後のように「なかなか気づきにくい」という事態はあまり考えられません。
そもそも借金も相続対象に含まれるため、何もしなくても相続人は必要な手続きに迫られます。
業者とコンタクトをとる機会もあるため、取引履歴を取り寄せて故人の借金状況についてきちんと調べておくことが重要です。
取引履歴があると、過払い金額がどれくらいに上るのかも判明しますし、その額次第で請求するかしないかの判断もしやすくなります。
相続人同士の了解も得られやすくなり、手続きの開始を大きく後押しします。
また、過払い金がほとんど出ず、多額の借金だけが残る結果であれば、相続放棄という手段も選べます。
いずれにしても、まだ借金が残った状態で先立たれた場合は、相続物の把握という意味で取引履歴の取り寄せは欠かせません。
故人過払い金請求では、相続関係の書類を集める必要があります。
目的 | 提出時期 |
---|---|
故人の最新戸籍 | |
故人の死亡を証明するため | 調査依頼時 |
代表者相続人の現在戸籍 | |
代表者の身分証明 | 調査依頼時 |
委任状 | |
代表者に権限を与えることについて、相続人全員の同意を証明する | 調査依頼時 |
相続人が分かる戸籍(コピー) | |
過払い金請求権利の相続人を確定する | 調査依頼時 |
取引履歴 | |
過払い金額を調査するために必要 | 調査依頼時(事務所取り寄せでも可) |
遺産分割協議書 | |
和解内容について、相続人全員の同意を証明する | 和解後 |
未済における故人過払い金請求では、借金状況を把握するために取引履歴の事前取り寄せをおすすめします。
遺産分割協議書は、おのおのの相続人に署名・捺印(実印)をお願いし、事務所宛てに郵送してもらいます。
故人に代わって過払い金請求する際の注意ポイントを以下でまとめます。
過払い金請求は、完済10年で時効を迎えます。
一般に、故人の過払い金は完済から年月が経過しているケースが多く、時効になっていないかの確認が重要です。
たとえ時効間際の土壇場で依頼しても、調査期間中に時効を迎えることも考えられます。
故人過払い金の有無を調べる際は、完済年月日も合わせてチェックしましょう。
返済中の故人過払い金請求では、「債務整理扱い」になるケースも多々あります。
いわゆる過払い金で借金総額を完全相殺できないケースです。
その場合、債務整理となるため、弁護士事務所に依頼すると1社あたり5万円の着手金を請求されることも。
整理後は、残った借金を相続人が返していくことになります。
借金相続を回避するためにとられる手段が、「相続放棄」です。
ただし、放棄の対象は借金にとどまらずすべての財産を含みます。
財産も何もなく借金だけが残る場合、相続放棄を選んでもよいかもしれません。
なお、相続放棄できる期間は、「事実を知ってから3ヶ月以内」と期限があるため、放棄するのであればはやめの手続きをおすすめします。
過払い金の有無を調べるために業者に問い合わせる際、先方からの「和解案」に注意してください。
過払い金が相当の額に上り、なおかつ借金が残っている場合、過払い金請求の放棄と引き換えに残債務の免除を申し出てくるなど、何かしらの取引を提案する可能性も考えられます。
その手の業者からの提案は、ほとんどの場合、依頼者にとって利のある話ではありません。
取引履歴の開示請求をかける際は、過払い金のことには触れず、「身内の借金状況を調べたいから」と差しさわりのない範囲の説明で十分です。
それでも業者から取引を打診されたときは、即答せず、弁護士・司法書士に交渉を引き継ぐことをおすすめします。
亡くなった身内に代わって行う過払い金請求。
調査依頼の前に、相続人の確定作業と、相続人全員の了解が欠かせません。
通常の請求手続きでは必要ない書類をそろえなければならないなど、手間がかかるのも特徴です。
ただし、故人過払い金請求は「相続」と密接に関わるものなので、財産関係を調べたり、相続登記したりする過程で必要書類がそろいます。
たとえば相続登記のためにそろえた故人の戸籍謄本コピーは、そのまま故人過払い金請求に使えるわけです。
何かしら相続に関する手続きが必要な場合、それと合わせて故人過払い金請求の準備をはじめれば、書類集めもそれほど負担に感じないのではないでしょうか。
時効には注意しつつ、時間があるときに必要な準備を進め、余裕をもって請求手続きに入ってください。